第16回:成長に伴う足の変化
前回のコラムで「朝には四つ足、昼には二本足、夜には三つ足で歩くものは何か」と言うスフィンクスの謎かけを例に、人間は年代によって歩き方が変わることをご紹介しました。ところで具体的にはどのような変化、成長が発生しているのでしょうか?
成長に伴う身体の変化
骨は、乳幼児の頃は軟骨成分が多く、全ての足の骨がX線写真で見えるようになるには4~5歳頃とされています。その後、成長に携わる骨端線が全て閉鎖するまでは男女で少し違いますが、おおよそ13~15歳です。
成長が終わり成人に達してからは、変形性関節症や骨粗鬆症など老化に向けて徐々に一連の変化が始まります。
これに対して筋肉は、5歳頃から急増し、男性は20歳、女性は16歳くらいでピークに達し、40~50歳までは維持されますが、60歳では80%程度となり、その後、筋力、筋量ともに急速に衰えていきます。
こうした骨と筋肉の成長に応じて、ハイハイから、よちよち歩きになり、オムツがとれる頃には、がに股で後傾した歩きから、前傾の大人の歩き方へと成長します。
「歩行」のメカニズム
一般的に、歩く時は「つま先で地面を蹴って前に進む」と考えがちですが、普通の歩き方では、逆に「踵で地面を突っ張ってブレーキをかけて」いる動作です。では、そもそも前に進む力はどこからくるのでしょう?
人が「歩く」動作は、まず初めに「前に重心を傾ける」ところからスタートします。すると、重心は踏み出した足を中心として円弧を描き、低く沈み込みながら前に向けて加速します。もちろんそのままでは転んでしまうので、もう片方の足を前に出して踵でブレーキをかけることで、速度を低下させると同時に、重心を高く押し上げます。こうして位置と運動のエネルギーを交互に切れなく交換させることで「歩く」という動作を実現しています。
よちよち歩き、すたすた歩き
では、たとえば「一歩一歩立ち止まりながら、ゆっくりと歩く」ことを考えてみましょう。足を一歩踏み出して立ち止まると、重心の位置エネルギーは最低、そして運動エネルギーもゼロになります。この状態で次の一歩を踏み出すには、多くの筋肉を使って重心を再び持ち上げなければなりません。たった数センチの重心を持ち上げるだけでも、一日一万歩あるけば、数万センチ(すなわち数百メーター!)も体を持ち上げる運動に相当するわけですから、とても大変です。これが、いわゆる「よちよち歩き」と「とぼとぼ歩き」です。これに対して、足で地面を蹴って加速したり、必要以上に体を前傾させたり、大股で歩く早い歩き方、「すたすた歩き」があります。
もちろん、普通歩きでも摩擦や抵抗に消費する分のエネルギーを補充するために、重心を持ち上げたり、地面を後に蹴って加速する必要があるので、少なからずエネルギーを使います。
この歩行に伴う消費エネルギーには、足の長さや体重、筋力、運動神経など、個人の要因ごとに異なる「もっとも効率のよい歩幅と歩速度」の組み合わせがあります。
それぞれの歩き方の特長に合わせて、いろいろな靴が用意されているので、自分の目的と特徴に合わせた靴を選んで、歩行を楽しみたいですよね。