最近は若い女性の露出度が上がったせいか、足の外来で脚の格好が悪いと言う悩みを、良く耳にします。
有名なドイツの解剖学の教科書(Lanz)には、「美しい脚は直立した時、左右の大腿部、大腿骨内顆、下腿の腓腹筋、足関節内果は互いに触れ合い、膝の下に膝菱形、足関節の上には果上菱形と言う間隙を作る。」と書かれています。しかし、「美しい脚と言えるのは、真っ直ぐな脚でも極わずかである。」とも書いてあり、真っ直ぐであれば美しいという訳でも無さそうです。
特にO脚は「がに股(蟹股)」とも言われ、嫌われるようです。でも、がに股は、柴又の寅さんのように、足を開いて膝を曲げ、腰を落とし「お控えなさって」というスタイルです。股関節を屈曲外旋、外転させて歩けば、誰でも、がに股の寅さんになります。逆に、少々O脚であっても、膝や股関節をしゃきっと伸して、一直線上を歩けば、がに股にはなりません。ハイヒールの害は色々ありますが、ハイヒールで歩くためには膝も股関節も伸ばさなければならないので、美しい脚を作り、スマートに歩くのには、格好の訓練になります。
次に多いのは、「子供のO脚がひどくて、うまく歩けません」と言うお母さんの悩みです。
歩行前の乳児は著明なO脚が普通で、荷重軸は膝より内側を通ります。処女歩行後は、O脚は弱まり、4歳頃には、ほぼ膝の中央を通り、真っ直ぐな膝となります。その後は逆にX脚が進行して、6歳頃には軽いX脚となります。成人になる頃には、荷重軸は膝の中央を通る様になります。 オムツをしている間は、股関節が外転しているので、寅さんと同じにO脚が目立ち、がに股で、うまくも歩けません。昔は、O脚と言えばクル病でしたので、心配するお母さんが今でも後を絶ちません。でも、「絶対母乳だけ」とか「絶対紫外線いや」など、絶対○○主義の偏った育児をしなければ、絶対(?)大丈夫です。
しかし、中年以降、O脚が進むようだと心配です。最近は、高齢化に伴って、変形性膝関節症の患者が増えました。最後には痛くて歩けなくなり、人工関節や車椅子のお世話になる患者が少なくありません。
立位正面レントゲン像で、大腿骨と脛骨の長軸が交差する点の外側角がFTA (femorotibial angle・大腿骨脛骨角)です。通常は170~175度、平均173度で、5~10度の生理的外反位をとります。 大腿骨骨頭中心と距骨滑車中点を結んだ線が下肢機能軸(Mikulicz線)で、下肢の荷重軸です。荷重軸が膝中心の2.5cm以上内側(O脚)または外側(X脚)を通るのは病的です。両脚起立では垂直線に対して約3度の角度で交わります。これが膝中心を通過する時の立位FTAは、172度となります。 膝には内側と外側に関節面があり、荷重がO脚では内側、X脚では外側の関節面に荷重がより掛かります。若い内は、荷重を受けると骨が丈夫になります。しかし、高齢になると特に女性では骨粗鬆症のために骨が弱くなり、潰れてしまいます。また、関節軟骨は再生しないので荷重が掛かり過ぎると、摩耗して薄くなります。ですから、O脚では内側、X脚では外側の関節が狭くなり、骨の変形も加わってO脚、X脚が進行します。荷重もそれに応じて増加するので、悪循環に陥り変形性膝関節症が悪化します。こうなってから、医者だ、薬だと騒ぎ立てても無駄です。コンドロイチン硫酸から、膝への注射まで色々治療がありますが、年に勝てる治療法はありません。
子供のO脚は心配ないと言いましたが、歳をとってのO脚が大変ならば、若い内にO脚を真っ直ぐに治しておきたいと思うのが人情です。しかし、巷にあふれているO脚の治療法は、サポーターからテーピング、ストレッチから筋力強化、歩行や姿勢の矯正まで、費用に見合う効き目はありません。自信を持って勧められる変形性膝関節症の治療は、体重を掛けない大腿四頭筋の訓練と、外側楔状足底板くらいです。歳をとってから骨が潰れないように、若い頃から運動と食事に気をつけなければなりません。
子供の大腿骨が骨折で曲がってしまっても、成長につれて自分で真っ直ぐになる事(自己矯正)が知られています。これは、骨が荷重を受けると成長するためで、成長期に運動することがO脚やX脚の矯正に役立ちます。
昔は正座や胡座など和式の生活がO脚の原因とされていましたが、そんな心配もなくなりました。少々O脚であろうとX脚であろうと、膝と腰をしっかり伸ばして真っ直ぐ歩けば、自然と美しく歩けます。子供の時にはよく遊び、大人になったら運動で骨と筋肉を貯蓄(骨々貯筋・コツコツ貯金)して、歳をとったら歩行でバランス良く骨と筋肉を維持しましょう。良い靴は歩き方を整え、きっと貴方を美しくしてくれます。