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第25回  子供の足と靴

歩き初め

立てば歩けの親心と言いますが、立つと歩くは大きく違います。重心の動揺を考えれば、立つも動的安定状態と言えますが、完成された立位は、足で作った面に重心を落とした状態を維持する、静的な安定状態です。これに対して歩行は片足から片足に重心を移して、交互に足を前に進めるという動的な状態です。体重が掛かる時期を立脚期、反対側に体重が掛かっていて前に出す間を遊脚期と言いますが、これを交互に繰り返して歩行します。 人間は椅子とは違うので、立位の間でも重心の位置は移動し動揺します。重心が踵に落ちていれば足関節に回転モーメントは生じませんが、少しでも前にズレればモーメントが生まれるので、放っておけば重心の落ちる位置は足の荷重面から逸脱して、転んでしまいます。これを防ぐのには二つの方法があり、下腿三頭筋を収縮させアキレス腱で踵骨を引っ張って反対の回転モーメントを生じさせ、前に倒れるモーメントを打ち消し踏み止まるか、片方の足を前に出して、荷重面を前方に移動させて、前方に移動した重心の落ちる位置が収まるようにするかの何れかです。 子供を歩き出す時期に観察していると、前に倒れそうになって足を前に出す時と、何かに掴まって片脚を上げられる状態で意識的に足を前に出す場合があります。前者は動的歩行の、後者は静的歩行の始まりです。

静的歩行の始まり

静的歩行の始まり    

静的歩行の始まりは掴まり歩きです。子供は掴まらないと立てない時代から、足を横にずらして移動を始めます。両手で掴まっている間は、前には進めませんから、足を横に出す蟹さん歩きです。完全片足立が出来るようになるのはまだ先の話ですから、片脚に体重を掛けて摺り足で足を動かし、出した足に体重を移して残った足を引き寄せます。これを繰り返して歩く訳ですから、出しては止まり、出しては止まりの繰り返しで、リズミカルとか連続的な歩行には遠い話ですが、子供は根気よくこれを繰り返し、思わぬ距離を移動して吃驚させます。手を放して安定した起立が出来るようになると、足を前に出すことが出来るようになります。こうなれば、両足揃えから片脚を前に出し、体重を移して両足を揃え、安定したら又片脚を前に出すことが出来ます。初めは得意な方の足を前に出していますが、その内に左右を交互に出すことを憶えます。

静的歩行の始まり

その内に、右、揃え、左、揃えの一歩一歩の歩行が、右、左、右と交互に足を運ぶようになりなります。しかし、静的歩行では、荷重を移してから姿勢が安定するまで体重の移動を停止する静的な状態を挟むので、運動エネルギーと位置のエネルギーを口語に変換する、効率の良い人間特有の直立二足歩行とは言えません。

動的歩行の始まり

静的歩行がつかまり立ちから子供の意志によって始まるのに比べて、動的歩行は、手を放して前に倒れそうになり、倒れまいと思わず足を前に踏み出す事から始まります。猿が、離れた木から木へ移る時、思わず木から手を放して歩いてしまうように、子供もテーブルからテーブルの間を渡るために、足を踏み出します。立っちの状態から前に転びそうになり、身近の支えに手を伸ばし、足を踏み出すこともあります。おっとっと、踏み出した足に体重を掛けても、踏みとどまれなければ、転ばないように、反対の足を出すしかありません。大きく踏み出せれば、倒れかかった体を支え、加速を減らし止まることもあり得ますが、大抵は小刻みに足を出し、最後には前に転びます。パーキンソン病の患者さんが同じ様な状態になります。子供は発達途上と患者は衰退途上という正反対の状態ですが、不十分な協調運動能力という状況は同じものです。

動的歩行の始まり

最初は、次の掴まれる場所に到達できなければ、2,3歩で転んでしまいます。でも、直ぐに慣れて遠くまで渡れるようになり、最後には掴まらずに静止できるようになります。自ら前に体を倒して歩き始め、体を起こして減速し、足を突っ張って停止できるようになれば、人間特有の直立二足歩行の始まりです。こうして、静的歩行と動的歩行を繰り返しながら人間としての歩行を獲得していくのです。この時期に大切な靴の条件は、足を前に出しやすいように軽いこと、足を着いた時に滑らないこと、床や地面の状況を正確に把握できるように底が薄くて柔軟な事の三つです。