乳幼児の足の成長は、単に大きくなるだけでなく、生誕時には距骨と踵骨ぐらいしか骨化していなかった足根骨が次々と骨化し、長管骨の骨端核も出現します。 個体発生は系統発生を繰り返すと言いますが、子宮の中では水中の魚と同じ無重力の状態から、出生後、重力に対抗する術を覚え、数ヶ月後にはハイハイで四足歩行を経験し、1年ちょっとで二足歩行を始めます。30億年前に単細胞(妊娠)、3億年前に陸上で四足歩行(出産)、300万年前に二足歩行(処女歩行)と大雑把に考えると、30億年の系統発生を2年余りで復習するのですから、大変です。
幼稚園までの歩行は、処女歩行からオムツの取れるまでと、その後のシームレスでリズミカルな前傾姿勢での歩行が完成する時期に大別されます。処女歩行前の足は、足底部の脂肪も柔らかで、アーチも未発達で、趾の動きも開いたり握ったりと手と変わりません。 立っちから片足を浮かせることが出来るようになると、あんよが始まります、両足を開き気味にして、膝と股関節を屈曲し、お尻を落とした姿勢で前に進みます。後に転ぶときはお尻が落ち、前に転ぶときは膝が曲がって四つんばいと安全運転です。縦アーチもアキレス腱の制御も未熟なので、遊脚期も足を引きずり体を捻って足を運びます。両生類が体重をお腹で支えながら、体を捻って足を前に出す姿を思い出させます。 片足で体重を支えバランスが取れるようになると、片足を地面から離せるようになり、同時に下腿三頭筋で踵を持ち上げ、アキレス腱の力を縦アーチを介して前足部に伝え、前足部だけで体重を支えられる様になります。踵着地から足底全体を着き、踵を離床して踏み替えしと言う、大人の歩行が出来る様になります。しかし、協調運動、姿勢の制御、バランスの保持と言った神経系の発達は不十分で、体の前傾姿勢を使ったスムーズでリズミカルな歩行はまだまだです。 オムツが完全に取れる頃には、O脚だった膝もX脚気味になり、骨も筋肉も丈夫になって、大人の様に歩けるようになります。それまでは、力ずくで足を前に出し、体重を移してその足に乗せ、体重の掛からなくなった足を持ち上げて前に出すと言う一歩一歩の歩行でした。この時期に、重心の沈下を利用して体を加速し、降り出した足で地面を突っ張るようにして沈んだ重心を持ち上げる事を繰り返すエネルギー消費の少ない歩行を習得します。こうして、幼稚園に入る頃には大人についてかなりの距離を歩けるようになります。 幼稚園の頃から、単に速い歩行からパターンの異なる駆け足を始めますが、この時代の大きな変化は、アキレス腱と縦アーチの発達です。この二つは、踵を持ち上げ、体重を踵から前足部に移動し、踏み返しによって更に重心を持ち上げるという、効率的な人間の二足歩行の最も重要な運動を可能とします。踵を持ち上げ踏み替えしをすることは、類人猿には出来ません。チンパンジーは一歩一歩ゆっくりと踵を上げないまま歩いたり、地面をけるようにして小走りしたりすることは出来ますが、人間のように踵を持ち上げて踏み返すという歩き方は出来ないのです。
おわかり頂けたと思いますが、誕生から幼稚園の頃までに、魚から両生類、は虫類、哺乳動物、人間という、動物が3億年かけて経験した変化を復習するのです。その間、縦アーチの頂点に位置する要石の舟状骨と、アキレス腱に引っ張られる踵には最も負担が掛かるので、障害を起こします。舟状骨の無腐性壞死がケーラー病、踵骨大結節の骨端症がシェイファー病で、成長過程において過大なストレスが掛かった為に、一時的な血行障害が生じ、圧潰や分裂を来すものと考えられています。幸いなことに、一過性の痛みを生じたり、結構派手なX線写真の変化を起こしたりしますが、最終的には後遺障害を残さず完治します。 子供の足の成長は個人差が大きい上に、社会的環境と肉体的発達のバランスによっては思わぬオーバーユースが働く事があり、成長障害を起こす危険性は常に存在することを忘れてはなりません。子供の足の発育にとって、大地とのインターフェイスとなる靴は、栄養や教育と同じくらい大切なものです。子供の足をオーバーユースや怪我から守るためにも、成長に合わせた靴を選んでください。