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第12回  歩行の構造と年代別の骨格/筋力の変化

足の重要性

常時・直立・二足歩行は人類の最も大きな特徴の一つです。 3億年前に我々の祖先が海から陸に上がった時は4本脚でした。両生類の山椒魚から始まって哺乳類の最速チータまで4本脚を続けています。しかし、人類は約300万年前に2本脚で立ち上がり、二足歩行を始めました。結果として前脚は手になり、火や道具を使い、万物の霊長と言われるまで進化したわけです。 我々は2本脚で立っていられますが、2本脚の椅子は、ほっておけば倒れてしまい、最低でも3本脚でなければ立っていられません。でも、脚の下に足をつければ、自力で立っていることができます。我々の足も、進化して大きくなった踵と前足部を縦アーチと足底筋で繋ぎ、強力なアキレス腱で支えて立つことができたのです。

O脚とX脚

「朝には四つ足、昼には二本足、夜には三つ足で歩くものは何か」と言うスフインクスの謎のように、人間は年代により歩き方が変わります。 四つ足でハイハイする新生児では、下肢長は身長の3分の1に過ぎず、上肢と変わりません。成長に従って下肢長の占める割合は増え、成人では2分の1に達し、上肢より長くなります。 下肢の形態も新生児ではO脚ですが、6歳頃にはX脚となり、成人では真っ直ぐとなって、老人になると変形性膝関節症のためO脚になり、杖を突き3本脚で歩きます。

O脚とX脚    

骨そのものも乳幼児の頃は軟骨性分が多く、全ての足根骨がX線写真で見えるように成るのは4~5歳で、成長に携わる骨端線が全て閉鎖するのは男女で少し違いますが13~15歳です。 成長が終わり成人に達してからは、変形性関節症や骨粗鬆症など老化に向けて一連の変化が始まります。これに対して筋肉は、5~5歳から急増し、男性は20歳、女性は16歳くらいでピークに達し、40~50歳までは維持されるが、60歳では80%程度となり、その後、筋力、筋量ともに急速に衰えます。 この変化に応じて、ハイハイから、よちよち歩きになり、オムツがとれる頃には、がに股で後傾した歩きから、前傾の大人の歩き方に成長します。左右対称のリズミカルでスムーズな歩行を習得すると、より早い疾走に進みます。これらは、筋骨格系と神経系の相互の発達に依るものです。 歩き方は運動と位置のエネルギーの使い方から三つに大別されます。 標準的な歩き方は、健康な成人が普通の速度で歩く時の歩き方です。原則は左右対称、連続、エネルギーの保存です。一般に歩く時つま先で地面を蹴って前に進むと考えがちですが、普通の歩き方では、逆に踵で地面を突っ張ってブレーキをかけています。

O脚とX脚    

では、なぜ前に進めるのでしょうか。歩き始める時、まず重心を前に傾けます。すると、重心は立脚足を回転中心として円弧を描き、低く沈み込みながら前に向けて加速し、速度が上がります。そのままでは転んでしまうので、遊脚足を前に出し踵で接地しますが、地面からの反力は重心を高く押し上げると同時に後ろ向きに加速し、速度は低下します。この時、抵抗ゼロの理想状態を考えると、速度は下がり続けて停止し、その時の重心の位置は元の高さに戻っています。これを左右交互に繰り返していけば、永遠にエネルギー消費ゼロで前に進めるわけです。そんな旨い話はあるはずがない、と言うでしょうが、摩擦、抵抗ゼロの世界では立派に成り立つのです。もちろん、現実の世界では。空気抵抗、関節の摩擦、筋や腱の抵抗など、運動エネルギーを熱エネルギーとして失うので、その分筋肉で重心を上や前に移動させ、運動エネルギーを養ってやらなければなりません。坂道や階段、信号と抵抗勢力は山ほどありますが、車輪と同等の効率を持つ移動装置を我々が備えていると考えるのは愉快ではありませんか。 しかし、これには位置と運動のエネルギーが交互に切れなく交換されていなければなりません。従って、左右対称でなければならず、重心が最高点に達し低置、時点以外で運動を強制的に停止すれば、エネルギーは保持されません。たとえば、一歩一歩立ち止まりながらゆっくりと歩くことを考えてみましょう。足を一歩踏み出して立ち止まると、重心は最低の位置で停止するので、位置のエネルギーは最低、運動エネルギーはゼロになります。次の一歩のためには重心を半歩前進させ、最高値まで持ち上げなければなりません。そのためには、多くの筋肉を働かせて運動しなければなりません。たとえ数センチ重心を持ち上げるだけでも、一日一万歩あるけば、数万センチすなわち数百メーター体を持ち上げる運動を強いられるのですから大変です。これは一日と言わなくても、百メーターも試してみれば、十分体感できます。これが、よちよち歩きととぼとぼ歩きなのです。 これに対して、足で地面を蹴って加速したり、必要以上に体を前傾させたり、大股で歩く早い歩き方、すたすた歩きがあります。 普通歩きでも摩擦や抵抗に消費する分のエネルギーを補充するために、重心を持ち上げたり、地面を後に蹴って加速したりします。この消費エネルギーを最低にする、下肢長、体重、筋力、運動神経など、個人の要因で決まる、もっと効率のよい歩幅と歩速度の組み合わせがあります。そして、この最適値を中心に、目的や必要性、性格や年齢で、歩幅と速度を変えるのですが、原則的には最適値から離れれば離れるほど効率は低下して、疲れます。 すたすた歩きで、歩幅を大きくすれば、歩速度は上がりますが、足を前方に降り出す速度を上げなければなりません。また、接地時の踵への反力のベクトル方向が水平に近く、速度の低下に比べて位置の上昇がゆっくりになり、効率が落ちます。逆に時間あたりの歩数を上げても速度は速くなりますが、接地に伴い消費されるエネルギーが増加し効率が落ちます。

歩き方の特長を生かす靴選び

この様に、一口に歩行と言っても、安定性はよいが非効率な幼児のよちよち歩きから年寄りのとぼとぼ歩き、速くて運動にはなるがやはり効率の落ちるすたすた歩きまで、左右対称でスムーズな普通の効率よい歩き方を中心にいろいろな歩き方があります。この歩き方の特長を生かす為に、いろいろな靴が用意されているので、自分の目的と特徴に合わせた靴を選んで直立二足歩行を楽しみましょう。