dr-inokuchiQRcode

第1回 ロコモティブ・シンドロームの予防と対策

ロコモティブ・シンドロームとは

10月8日は日本整形外科学会お勧めの「骨の日」でした。なぜ?「骨」「ホネ」「ホ」「十・八」だから「十月八日」悪い冗談に近いですね。
学会のもう一つのお勧めが「ロコモ」です。何だろうと辞書を引いても出ては来ません。ロコモティブ・シンドローム(locomotive syndrome)(運動器症候群)の略で、日本で出来た新しい言葉だからです。即ち、ロコモとは、日本整形外科学会が2007年から提唱している新しい疾病概念で、「運動器の障害」により「要介護になる」リスクの高い状態になることです。ですから、学会が推奨しているのはロコモになることではなく「ロコモの予防」です。ちなみに、locomotiveを辞書で引いてみると、「移動」という意味以外に「機関車」と言う意味があります。蒸気機関車を想像すると、病気の名前とはミスマッチで、何となく楽しくなります。

ロコモティブシンドロームの概念図

ロコモになるとどうなるの?

ロコモの原因には、骨・関節・筋・神経など運動器自体の病気と、加齢や運動不足による運動機能の低下の二つがあります。これらが原因になり、運動不足と運動機能低下が悪循環を繰り返し、運動器自体の病気を引き起こし、更に悪循環が進んで、最後には「寝たきり」から「死」に至るのです。
運動機能が低下すると、行きたい所に行けない、やりたい事が出来ないので、生活の質(QOL quality of life)が低下します。更に、自分のことが自分で出来なくなれば、要介護となって周りに迷惑を掛けることにもなります。歳を取って運動不足になりがちだからと言って、寝たきりになっては敵いませんから、ロコモにはならないように、早期から予防に心がけなければいけません。

ロコモチェック!

ロコモを予防するには

日本整形外科学会ではロコモの予防のために、開眼片脚立ちやスクワットをロコモ用のトレーニング(ロコトレ)として紹介しています。でも、会員の一人としても、正直に言って面白くありませんし、余りやる気も起こりません。歳を取ってロコトレにお世話になる前から、ロコモと並ぶメタボも一緒に予防できるよう、もう少し運動量の多いトレーニングやスポーツを始めませんか。ウォーキングを始めジョギング、水泳、テニス、サッカーなどのスポーツも楽しみながらロコモを予防しましょう。

ロコモ予防に効果的な運動

厚労省は一日に必要な身体活動量を「歩行又はそれと同等以上の強度の身体活動を毎日60 分以上」としています。なぜウォーキングかと言うと、一番身近で、誰でも簡単に出来る運動だからです。それに、人間は動物、「動く物」ですから、動く、即ち歩くことが、人間にとって最も基本的な事だからです。人間らしさを保つ基本となる歩行能力をより長く保つ方法としては、歩行自体が最良のトレーニングなのです。歩くためには歩くことが一番と言う極々当たり前のことが基本になります。

ロコモ予防に効果的な運動

歩くってこんなにスゴイ!

人間は動物の中で唯一、常時直立2足歩行をします。そのお陰で、手を自由に使え、大きな頭脳を支え、言葉をしゃべることが出来るようになりました。しかし、2本足で歩くためには、単に脚で体重を支えるだけでなく、倒れないようにバランスをとりながら重心を前に移動するという高度の運動神経、知覚神経を必要とします。
歩くためにはバランスをとるための平衡感覚だけでなく、足の裏の触覚、圧覚、痛覚、振動覚などの知覚、関節角度や筋肉や腱の張力を知る深部知覚を始め、周囲の状況を知るためには視覚や聴覚などが必要です。また、歩くためには多数の筋肉を動かし、制御する運動神経が重要なことは言うまでもありません。これらの知覚神経と運動神経を色々なレベルで結び付ける神経反射、小脳レベルでのコントロール、そして最も大切な目的の場所に能率良く安全に到達するという大脳レベルの情報処理という高度な知的活動が必要です。 これら全てのことが、歩行という単純な運動の中に凝縮されているわけですから、歩行が人間にとって基本とも言えるほど重要であるばかりでなく、そのトレーニングとしては歩行自体が最も能率的な方法であることが分かっていただけたでしょうか。

日常生活で出来る「ロコモ予防」

しかし、たかが60分の歩行とは言っても、いざ始めるとなると、普通のサラリーマンにとっては結構ハードルの高い物です。でも、心配はありません。毎日の通勤で平均30分ぐらいは歩いていますから、後30分頑張ればよいのです。行きと帰りで15分ずつ歩くために会社の一駅手前で降り、一駅先から乗ってみましょう。思い切って降りてしまえば結構歩ける物です。それに、通勤は毎日の習慣ですから、歩くことを習慣として組み込んでしまうのが続けるコツです。生活習慣病は15分の歩行を通勤という習慣に組み込んで予防するのが一番です。
でも、もっと大切なのは歩行を楽しむ環境作りです。都会の硬いアスファルトの上を快適に歩くのには、それに適した靴を選ぶことが大切です。折角歩いてロコモを防止しようとしたのに、衝撃で足や膝を痛めては何もなりません。最近は、衝撃を緩和したり、捻挫や転倒を防止したりする工夫を凝らした、ウォーキング・シューズが開発されています。歩行に適した靴で弱った足を護りながら、歳を取って寝たきりにならないように、明日からロコモの予防を始めて下さい。