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第9回  足の健康を考えた靴の選び方

足の健康とは

 整形外科医として足を診はじめて半世紀以上が経ちました。「どんな足でも、あるだけ良い」と思うこともあれば、「こんなに痛がるなら、足なんてない方が良いのでは」と考えることもありました。足の健康とは何でしょうか。
足にとって最も大切なことは痛まないことです。勿論、長時間立てて、長距離歩け、速く走れる事も必要で、更に、歳をとっても足が使えれば言うことはありません。これらを実現する為に足を「鍛える」且つ「護る」事が足の健康の秘訣と言えます。しかし、両者は時として矛盾し相反するので、鍛えるか護るかに応じて靴選びも変えないと、かえって逆効果になりかねません。靴選びを間違えると、鍛えようとしてかえって足を傷つけたり、護ろうとするばかりにひ弱な足を作ったりすることになります。
人間が2足歩行を始めてから、脚は2本で4本分の荷重を引き受けることになり、足底は大きな圧力にさらされています。石ころだらけの凸凹道を裸足で歩いてみれば、これに耐えることがどんなに大変なことかは直ぐ分かります。硬い平らな靴の底は、圧の集中を防ぎ均一化することによって圧を減らし、クッション性と相まって、足を痛みや傷つくことから護る大切な働きをしています。

自由の確保が足の健康になる

しかし、靴無しには歩けなくなったのは、人類の数百万年の歴史からみれば、極々最近のことです。エチオピアのアベベ選手は裸足でローマオリンピックのマラソン42.125kmを走りきって優勝しました。極最近まで、人類が裸足で荒野を走り回る能力を持っていたことは明かです。
では、靴が裸足で歩く能力を奪ったことは明かですが、靴は足を不健康にしたのでしょうか?一昔前のマサイ族の人に比べれば、我々は遠く速く歩くことが出来ないばかりでなく、遠くの物は見えず、小さな音は聞こえず、かすかな臭いも分りません。それなら、我々は昔のアフリカのサバンナの生活に戻るべきなのでしょうか。
高齢化、少子化と騒いでいますが、平均寿命が40歳を超えたのは明治中期の話です。今でも世界を見渡せば、川で水を汲み、薪を拾って火を起こし、冷房どころか暖房もない小屋で寒さに震え、細菌や寄生虫に感染し、飢餓に苦しみ、平均寿命が40歳そこそこの地域は少なくありません。そんな生活に戻って、裸足で生活できる丈夫な足を得ようとは思わないでしょう。自動車を運転し、スマフォやパソコンを使いこなし、恵まれた環境に合わせて、与えられた寿命を有意義に快適に過ごせる自由を確保することが、足の健康と言えます。

足の健康の為の靴選び

では、足の健康のために、具体的にはどんな靴を選んだらよいのでしょうか?まずは痛くないことです。シューフィッターに足長と足囲を正確に測ってもらい、きつ過ぎないサイズを選びます。
若い人が足を鍛えたいと思うなら、踵や前足部の脂肪組織とアーチを鍛え、踏み返しを訓練しましょう。薄く曲がり易いフラットな靴底で、アーチサポートやクッション性はいりません。要はアスファルト・ジャングルの中で、裸足に近い靴生活を送るのです。しかし、忘れてはならないのは、多くの人が何十年と過保護な生活でひ弱な足になっていることです。足は疲労骨折の最も多い部位です。

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その1:40歳過ぎで足を鍛えるなら

40歳過ぎになって足を鍛えたいと思ったら、パンプスや紳士靴の底の厚めの物を選びましょう。そろそろ体の補償期間が切れかかる歳なので、足底筋膜炎やモルトン病が多くなります。MTP関節や足関節は厚めの曲がりにくい靴で護りに入り、ロッカーボトムやヒールで足の踏み換えしを助けながら、一日の歩数を確保して、足と脚の筋力を強化してください。筋力を強化すれば、関節軟骨や靱帯の老化を防止できます。

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その2:60歳過ぎで足を鍛えるなら

60歳過ぎて足を鍛えたいと思ったら、軽くて、クッション性とアーチサポートのあるインソールの着いた靴を選びましょう。大切なのは転んで骨折しないことです。気がついた時には、足先を引っかけてつまずき転ぶ年になっています。足だけでなく体全体の補償が切れてきますから、心臓と肺、足腰の筋力とコントロールする神経を維持しなければなりません。頭で考えるほど、神経は働かず、神経が命じるほど筋力は出ないので、転びやすくなります。バランス良くこれらを鍛えるためには、軽く、歩きやすい靴で、小股でゆっくり長く歩くことです。

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健康に役立つ靴に出会うために

残念ながら、この靴を履きさえすば健康になると言う靴はありません。人生の時期に合わせ、自分の健康と幸福についてしっかりと考え、自分の求める物を自分自身で決めて下さい。足に関心を持ち、人生の目的をしっかり決めれば、健康に役立つ靴が必ず見つかります。