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第19回  ウォーキング/ジョッキング/ランニングの足の動きの違いと、それに伴う必要な靴の機能前編

足の動きの定義

歩く/walk、ゆっくり走る/jog、走る/runは誰でも知っている単語ですが、ウォーキング/waliking、ジョッキング/jogging、ランニング/runningはどうでしょうか。英語では動詞と動名詞(~する事)の違いですが、日本語の歩く/ウォーキング、ゆっくり走る/ジョッキング、走る/ランニングではだいぶニュアンスが異なっています。と言って、ウォーキング/ジョッキング/ランニングは、競歩/マラソン/競走とも違い、スポーツより健康法の意味合いが強いので、正しい方法があり、勝てば良いと言う訳では無いのが面白い所です。 まずは、「歩く」と「走る」を足の動きから定義してみましょう。競歩のルールには、常にどちらかの足が地面に接していること、前脚は接地の瞬間から地面と垂直になるまで膝を伸ばすことが規定されています。これに則れば歩くは膝を伸ばして加速せず宙を飛ばず、走るは地面を蹴とばし宙を飛んでいくのです。

エネルギー効率の良い歩き方

二足歩行は人間の基本であり、ある距離を最も少ないエネルギーで移動する為に、人間の足は発達してきたと言っても過言ではありません。SFの世界では2本足の代わりの車輪を持つ人間が出てきますが、車輪であれば空気抵抗や機械的摩擦を無視すればエネルギーを消費せずに移動が可能となります。だから人間の最もエネルギー効率の良い歩き方を考えてみると、速度の変化即ち加速度が無く、重心の高さも変わらない事になります。そんな事が出来るはずが無いと考えがちですが、多くの人が普通に歩けばこの条件を巧みにクリアーしています。 立った状態から少し体を前に傾けると、重心は重力に引かれて前方、下方へと加速し、重心は下がりつつ前に進みます。このままでは前に転んでしまうので、足を前に出すが踵が着地すると足自体は止まります。この時、股関節は屈曲、足関節は底屈し、膝関節は伸展位でロックされ下肢の長さは変わりません。その後、棒高跳びの選手が助走の後、ポールを突いて飛び上がるように、重心は上昇し、前進する速度は低下して、股関節、膝、足関節が中間位で下肢が垂直となり、重心がその上で最高位に達します。高さのエネルギーが前方への速度のエネルギーとなり、踵着地後は逆に速度が減じて速度のエネルギーが高さのエネルギーに変換されます。位置と速度のエネルギーは交換されるだけで、摩擦や抵抗を無視すれば車輪と同じようにエネルギーを消費せずに移動できます。 「歩く」が最少エネルギーの動きだとすれば、「走る」の究極はエネルギー効率を無視した最速の動きです。出せる力には違いがありますが、最速で動くためには、最大限の力をできる限り前方への加速に当てる事です。力は足関節の底屈、膝と股関節の伸展でもたらされるので、乱暴に言えば兎跳びを地面と平行に片足ずつ行うのを想像すれば良い事になります。もちろん前に倒れないように重力に抗するベクトル成分は必要ですが、歩く時の位置と速度のエネルギー交換に必須だった後ろ向きの力など考えられません。足先しか、そして力を地面に伝えるためだけにしか接地しません。接地時に下肢を短くするために膝と股関節を曲げ、加速のために最大の力で伸展します。極端な話ですが、同じ2本足での移動と言っても、歩くと走るは全く別の動きと言えます。

必要な靴の機能

2足での移動は、この二つの極端な例の間にあると言って差し支えありませんが、最少エネルギー消費の歩きでは健康増進のウォーキングとしての役には立たず、速く走ると言っても100m競走とマラソンでは足どころか体全体の使い方が全く異なります。ただ、ウォーキング/ジョッキング/ランニングの定義を健康と楽しみのための低、中、高負荷運動のための二足移動と強引に定義してしまえば、必要な靴の機能も自ずと見えてきます。 ウォーキングには自然に振り出せる適度の重さ、踵を護るクッション性があり足関節の底屈を助ける2~3cmのヒール、踏み返しを助け前足部を護る厚めのロッカーボトムでトー・アップしたソールが必要です。ジョッキングには足が出しやすい軽さ、ヒールは低くクッション性は重要ではありませんが、前足部のソールはショックを和らげる厚さは必要で、踏み返しを助けるローリング機能も欠かせません。ランニングには軽さとグリップ性能が中心でヒールは低く、踏み返しのために曲がりやすいソールであれば薄くても構いません。当然、耐ショック性は少なくなりますが、ランニングは健康法より競技・スポーツと心得て、痛ければ速度や距離を落とすか、ジョッキングに切り替えた方が良いと思います。

必要な靴の機能